行事シーズンに成績を崩さない子の共通点
9月から10月にかけて、教室の空気が少し変わる時期がある。
体育祭の練習で真っ黒に日焼けした子、
文化祭の準備で夜遅くまで学校に残っていた子。
みんな一様に「今週は勉強どころじゃなかった」という顔で塾のドアを開ける。
40年、この時期を見続けてきて分かったことがひとつある。
それは、
行事シーズンに成績を崩す子と崩さない子の差は、
才能でも気合いでもないということ
だ。
崩れない子には、ある共通点がある。
それは「隙間時間ができたら頑張る」のではなく、
「ある瞬間が来たら、自動的に体が動く」
仕組みを持っていることだ。
今日は、その仕組みの正体と、行事シーズンだからこそ気をつけたい
"見えない落とし穴"
について、データと一緒にお話ししたい。
学校外学習時間減少の影響と対策
まず知っておいてほしい事実がある。
ベネッセ教育総合研究所と東京大学社会科学研究所が、
同じ親子およそ2万組を2015年から2025年まで11年間追跡した調査によると、
1日あたりの学校外学習時間(宿題・家庭学習・塾での学習時間の合計)は、
この11年間で高校生が22分、中学生が19分、小学4〜6年生が17分、小学1〜3年生が9分減少し、
どの学年でもおよそ2割減少している
という結果が出ている。
さらに見逃せないのが、
「自分に合った勉強のやり方を工夫する」
という、いわゆる"学びを自分で調整する力(自己調整力)"が、
特に小中学生で低下しているという点だ。
宿題以外の家庭学習を一切しない子どもの割合も、
この11年で10ポイント前後増え、
いまや中学生の4割が「家庭学習0分」の状態にあるという。
つまり今の子どもたちは、単に忙しいから勉強時間が減っているのではなく、
「自分で自分の学習をコントロールする力」
そのものが弱まっている可能性がある。
これは、体育祭・文化祭のような
"特別に忙しい期間"にこそ、如実に表れる。
行事シーズンは、いわば自己調整力の
"抜き打ちテスト"
のようなものなのだ。
両立のコツが機能しない理由と新たなアプローチ
世の中には
「行事と勉強を両立するコツ」
を紹介する記事が数えきれないほどある。
「隙間時間を使おう」
「オンオフを切り替えよう」
「生活リズムを整えよう」
――どれも間違ってはいない。
だが、正直に言うと、
これだけでは大半の子は動けない。
なぜなら、
「隙間時間にやろう」
という言葉は、行動のきっかけを何も指定していないからだ。
「隙間時間」がいつ来るのか、
来たときに何をするのか、
事前に決まっていなければ、疲れた頭は結局スマホに手を伸ばす。
これは意志の弱さの問題ではなく、設計の問題だ。
40年間、数えきれないほどの生徒を見てきたが、
「今日から頑張る」と決意した子より、
「体育祭の練習が終わったら、着替える前に単語を10個見る」
と具体的に決めた子のほうが、圧倒的に継続できている。
この違いを心理学の力を借りて説明したい。
もしも学習法で行事シーズンを乗り切る
心理学者ピーター・ゴルヴィツァーが提唱した
「実行意図(if-thenプランニング)」という考え方がある。
「もしXが起きたら、Yをする」
という形で、あらかじめ行動を条件づけておく手法だ。
ある実験では、普通に目標を立てただけの人は31%しか行動を達成できなかったのに対し、
if-then式で「いつ・どこで・何をするか」を具体的に決めた人は
91%が行動を習慣化できたという結果が出ている。
この差は決して小さくない。あいまいな決意と、
条件づけされた行動計画とでは、実行率が2〜3倍も変わるのだ。
これを行事シーズンの勉強に応用したのが
「もしも学習法」だ。
難しいことは何もない。今日から使える型を3つ紹介する。
- もし体育祭の練習が終わって家に帰ったら → 着替える前に英単語を10個だけ見る
- もし文化祭の準備で疲れて何もしたくなくなったら → 教科書を1ページだけ開いて閉じる
- もし寝る前にスマホを触りそうになったら → その前に、今日習った内容を1つだけ声に出して言う
ポイントは、「頑張る量」ではなく
「トリガー(きっかけ)」を先に決めておくことだ。
忙しい日ほど、判断する余力は残っていない。
だからこそ、判断せずに体が動く仕組みを、
忙しくなる前に作っておく必要がある。
行事後のリバウンドを防ぐ方法
ここまでは「行事の最中」の話をしてきたが、
実はもうひとつ、見落とされがちな落とし穴がある。
それは行事が終わった直後だ。
体育祭や文化祭が終わったあと、
「もうやりたくない」
というくらいまで力を出し切った生徒ほど、
燃え尽き症候群に近い状態に陥りやすいことが知られている。
打ち込んでいたものが終わり、
注いでいた熱量の行き場がなくなると、
集中力が続かず、勉強へのエネルギーが湧いてこなくなるのだ。
「行事の準備中は乗り切れたのに、終わった翌週から急に成績が落ちた」
というケースは、実はこのパターンが多い。
だからこそ提案したいのが
「切り替えの儀式」だ。
行事の翌日、何か特別なことをする必要はない。
「行事が終わったら、いつもの時間割に戻る前に、
まず1問だけ簡単な問題を解いて丸をつける」
――たったこれだけでいい。
達成感の余韻を、次の一歩につなげる小さな橋を、
あらかじめ用意しておくのだ。
行事シーズンで本当に差がつくのは、実は行事の最中よりも、この
「終わった直後の数日間」
だと、40年の経験から断言できる。
行事後のリバウンドを防ぐ方法
最後に、読んでくださっている保護者の方にお伝えしたいことがある。
この時期、多くのご家庭で
「行事を優先させていいのか、勉強させるべきなのか」
という葛藤が生まれる。
お子さんが行事に本気で打ち込んでいる姿を見て、頼もしく思う一方で、
「このままで大丈夫だろうか」
という不安もよぎる。
どちらの気持ちも、決して間違っていない。
はっきり言おう。
行事に全力を出すことは、勉強の敵ではない。
むしろ、仲間と協力して一つのものを作り上げる経験は、
自分でスケジュールを立て、限られた時間の中でやるべきことを判断するという、
まさに"自己調整力"そのものを鍛える機会になっている。
学校行事への積極的な取り組みは、
内申点や調査書の評価にプラスに働く場合もある。
だから、「勉強しなさい」と繰り返し言う必要はない。
必要なのは、行事に打ち込むお子さんの横で、
「もしも学習法」
を一緒に3つだけ決めてあげることだ。
「部活が終わったら」
「お風呂から上がったら」
――そんな小さな条件を一緒に決めるだけで、罪悪感を抱えずに両方を全力でやれる仕組みが整う。
行事シーズンに成績を崩さないための総まとめ
- 行事シーズンに成績が崩れるかどうかは、気合いではなく「仕組み」の差である
- 学校外の学習時間は11年で約2割減少し、特に自己調整力の低下が指摘されている
- 「隙間時間にやろう」ではなく、「もし◯◯なら◯◯する」という具体的な条件づけ(if-thenプランニング)が効果的
- 本当の勝負どころは行事の最中よりも「終わった直後」
- 保護者は罪悪感を手放し、お子さんと一緒に小さな行動のきっかけを決めてあげることが一番の後押しになる
行事シーズンの学習ペースが気になる方は、
いつでもお気軽にご相談ください。
大岩裕之(おおいわ ひろゆき) 雙葉進学教室 塾長。数学教育学修士・専修免許状取得。ロンドン・ニューヨーク・上海など6都市での指導を経て、2015年より半田市にて開校。指導歴40年・数学・理科専門。