「テスト直しはちゃんとやっているのに、また同じところを間違えた」
返却された答案を前に、そう感じたことはありませんか。
赤ペンで正解を写し、解説を読み、ノートにきれいにまとめる。
親から見れば、やるべきことはやっているように見えます。
それでも次のテストで、似たような間違いが顔を出す。
「直し方が悪いのか、それとも本人の集中力の問題なのか」
と悩む保護者の方を、40年の指導の中で数えきれないほど見てきました。
テスト直しで成績が変わるかどうかは、直す量では決まりません。
「自分はなぜそう考えたのか」
を、自分の言葉で説明できたかどうかで決まります。
正解を写す作業は、
間違いの「結果」を直しているだけです。
成績を左右するのは、その手前にある
「思考のどこで狂ったか」。
私はこれを「思考のバグ」と呼んでいます。
この記事では、そのバグの見つけ方を、
研究データと指導現場の経験から整理します。
間違いを繰り返す原因は「思考のバグ」にある
まず、考え方を一つだけ変えてください。
間違いは、気が緩んだ偶然の出来事ではありません。
多くの場合、同じ条件がそろえば同じように起きる、再現性のある不具合です。
プログラムのバグは
「次は気をつける」
と誓っても直りません。
どの工程で、どんな入力のときに、なぜ誤作動したのかを特定して、
初めて直せます。子供の間違いも同じです。
ところが、答案用紙に残っているのは
「間違った答え」
と、せいぜい途中式までです。
岩手県立大学の研究グループは、
解答用紙には現れない問題解答のプロセスの中に学習上の誤りが存在するため、
具体的な改善点や対策に気づけない可能性があると推察しています。
つまり、答案を眺めているだけでは、
バグの場所は見えません。
見えない場所を探すには、本人に
「あのとき、頭の中で何を考えていたか」
を言葉にしてもらうしかないのです。
赤ペンで答えを写すだけでは成績が上がらない理由
「正解を見る」ことと
「自分の間違いの理由を振り返る」ことは、
似ているようで別の作業です。
この違いを調べた実験があります。
ドイツのライプニッツ教育科学研究所(IPN)らが行った学校での実験です。
対象は7年生と8年生の174名で、分数の練習をしてもらいました。
生徒はランダムに2つの群に分けられます。
- A群:自分の誤答の背景にある考え方(なぜそう答えたのか)を振り返る
- B群:自分の誤答に対応する正しい解法を振り返る
結果はこうでした。
A群は、練習の直後のテストでも、後日のフォローアップテストでも、
手続き的知識(解き方を実行する力)が高い結果でした。
さらにフォローアップテストでは、
概念的知識(なぜそうなるのかの理解)も高くなっていました。
B群の「正しい解法を見て確認する」は、
家庭で言えば「赤ペンで正解を写す」「解説を読む」にあたります。
A群の「自分の考え方を振り返る」は、「どうしてそう書いたのか」を自分に説明する作業です。
同じ時間をかけても、効き方に差が出たわけです。
もちろん、この実験は分数の学習が対象です。
家庭学習のあらゆる場面にそのまま当てはまるとは断定できません。
ただ、「正解を確認するだけでは足りない」という方向を示す、
貴重な一次情報だと私は受け止めています。
指導の現場でも、似た光景をよく目にします。
直しノートはきれいに仕上がっているのに、
「この問題、どうして最初はこう書いたの?」
と尋ねると、首をひねってしまう生徒です。
きれいに写すことが目的になり、
肝心の「自分の考え」が置き去りになっているのです。
自信を持って間違えた問題が成績向上の鍵
返却後の気持ちを前向きに変えてくれる研究を、もう一つ紹介します。
記憶の研究者であるジャネット・メトカーフらは、
「ハイパーコレクション効果」
という現象を報告しています。
高い自信を持って間違えた問題は、
自信の低い誤答よりも、正しいフィードバックを受けたあとに正答を覚えやすい、
というものです。
Annual Review of Psychology(2017年)の総説でも、
誤りを犯したあとに正しい修正フィードバックを受ける学習は有益であり、
とくに自信が高かった誤りで効果が顕著だと述べられています。
さらに、誤りに至るまでの推論の分析を含むフィードバックが重要だと指摘されています。
これを日常の言葉にすると、次のようになります。
- 「自信があったのに間違えた」問題は、直したときの記憶への残り方が大きい
- 「分かっているつもり」だった部分こそ、一番大きな伸びしろがある
- 落ち込むべき失点ではなく、一番おいしい復習材料である
返却された答案で、点数が悪かったときほど、子供は
「全部ダメだった」
と感じがちです。
そこで「自信があったのに間違えた問題はどれ?」
と聞いてみてください。
その問題が、最短で成績を押し上げてくれる候補です。
「気をつける」では不十分——具体的な振り返りが成績を上げる
では、振り返りさえさせれば効果が出るのでしょうか。
ここは正直にお話しします。
岩手県立大学の数学リメディアル科目では、
毎回の確認テストのあとに、振り返りシートを書かせています。
そのシートを分析した先行研究では、次のような傾向が報告されています。
- 成績上位者:記述量が多く、具体的な原因や対策が書かれている
- 成績下位者:記述量が少なく、改善点や対策のない、あいまいな記述が多い
差がついていたのは、
「振り返ったかどうか」だけではありません。
どれだけ具体的に言語化できたか
です。
一方で、大学教育で広まっている
「Exam Wrapper(試験後の振り返りシート)」
の効果は、研究によって結果が分かれています。
たとえば、Soicher と Gurung(2017年)は、
1科目での導入では、試験成績・最終成績・メタ認知の指標の
いずれも改善しなかったと報告しました。
この結果から、私は次のように考えています。
振り返りシートを書かせれば自動的に効く、
というものではありません。
「次は気をつける」「ちゃんと読む」
のような一言で終わらせてしまえば、書く前と何も変わりません。
効果を左右するのは、書かせ方です。
- 何を考えて、どう書いたのかが、具体的に書かれているか
- 一度きりではなく、テストのたびに繰り返されているか
- 本人が「何のために書くのか」を理解しているか
「気をつける」
という言葉は、バグの場所を教えてくれません。
「符号を写すとき、前の項の符号を見落とした」
まで書いて、初めて対策が打てます。
学習習慣を変える:バグ分析3ステップ
理屈が分かったところで、返却当日から使える手順をお伝えします。
特別な道具はいりません。ノートと鉛筆だけで始められます。
ステップ① 間違えた問題に「自信があったか」の印を付ける
- 正解を見る前に、間違えた問題の横に「自信あり」か「自信なし」を書く
- 「自信あり」で間違えた問題が、最優先の分析対象です
- 「自信なし」の問題は、そもそも知識や解き方が足りない可能性が高いと見ておきます
ステップ② 正解を見る前に、「あのとき何を考えたか」を一文で書く
- 「この公式を使えばいいと思った」「問題文の途中までしか読まなかった」など、短くて構いません
- ここが「自分の理由を振り返る」作業の中心です
- うまく思い出せないときは、思い出せないこと自体が大事な情報です
ステップ③ 原因を分類して、「行動」で対策を書く
- 学校の学習だよりでも、原因は大きく3つに分ける例が紹介されています。①問題をちゃんと読んでいなかった、②まったく解き方が分からなかった、③分かっていたのに間違えた
- ①なら「問題文の条件に下線を引く」、②なら「その単元の例題に戻る」、③なら「符号や転記のチェック箇所を決める」のように、手を動かせる言葉で対策を書く
- 「気をつける」「頑張る」は対策に数えません
最後に、数日後にもう一度、何も見ずに解き直してください。
分析が当たっていたかどうかを確かめる、答え合わせの時間です。
保護者へのアドバイス:「なんで間違えたの?」を「どこでそう考えたの?」に
最後に、声かけのコツです。
「なんで間違えたの?」
は、聞く側にそのつもりがなくても、責められているように響きます。
子供は黙るか、「不注意」と答えて会話を終わらせてしまいます。
質問を、少しだけ変えてみてください。
- 「この問題、最初はどう考えたの?」
- 「どこまでは自信があった?」
- 「次に同じ問題が出たら、最初に何をする?」
どれも、答えを求める質問ではなく、思考をたどる質問です。
聞き役に徹して、正解を教えるのは後回しにしてください。
親が先に答えを言ってしまうと、せっかくの
「自分で言葉にする」
機会がなくなってしまいます。
行動を促す結論:具体的なステップで改善を
テスト直しで同じ間違いを繰り返すのは、
努力が足りないからではありません。
間違いの「結果」を直していて、
「思考のバグ」を直していない
からです。
- 正解を写すより、自分の考えの理由を振り返るほうが、理解に効く方向を示す実験がある
- 自信があったのに間違えた問題こそ、直したときに記憶へ残りやすい
- 振り返りは、書くだけでなく「具体的に言語化できるか」が差になる
今度のテスト返却で、まず一つだけ試してください。
間違えた問題のうち、一番自信があった1問を選んで、
「あのとき何を考えて、そう書いたのか」
を一文で書いてみましょう。
その一文が、点数の裏に隠れていたバグの場所を教えてくれます。
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大岩裕之(おおいわ ひろゆき) 雙葉進学教室 塾長。数学教育学修士・専修免許状取得。ロンドン・ニューヨーク・上海など6都市での指導を経て、2015年より半田市にて開校。指導歴40年・数学・理科専門。