問題集は、スラスラ解いている。
宿題も、毎日ちゃんとやっている。
それなのに、テストで初めて見る問題が出ると、
手が止まってしまう。
「先生、これ習ってません」
と言う。
解けた問題と、ほとんど同じ形なのに。
そんなお子さんの姿を見て、
「もっと問題集をやらせたほうがいいのかしら」
と悩んでいませんか。
初見で止まる子は、考えていないのではありません。
「前に成功した方法」に、気持ちがしばられているのです。
力が足りないのではなく、
見方を切りかえるのが苦手なだけ。
だから、問題の量を増やすより、
練習のやり方を変える
ほうが効きます。
雙葉進学教室の塾長として40年、
子どもたちを見てきた経験と、いくつかの研究をもとに、
くわしくお話しします。
定型問題が得意な子どもが初見問題で苦戦する理由
まず、言葉を整理しておきましょう。
- 定型問題:何度も練習した、おなじみの形の問題
- 初見問題:初めて見る形の問題
定型問題が解けるのは、すばらしいことです。
決まった手順を、速く正確に使えるのは、大切な力です。
ただし、この力には「影」があります。
うまくいった方法ほど、頭にこびりつく
のです。
そして、新しい問題に出会っても、つい同じ方法を使おうとします。
それが合わなくても、なかなか手放せません。
心理学では、これを「構え(かまえ)効果」と呼びます。
かんたんに言えば、
「いつもの見方にしばられること」
です。
成績が伸び悩む中学生に見られる3つの特徴
教室で見ていると、初見で止まる子には、次のような様子があります。
- 問題を読むなり「あの問題と同じだ」と決めて、式を立て始める
- 途中で合わなくなっても、同じやり方を続けて、さらに混乱する
- 「この問題は習っていない」と、そこで手を止めてしまう
どれも、「やる気がない」わけではありません。
むしろ、一生けんめい、前に成功した方法を探しているのです。
水差し問題で明らかになった思考の偏り
「しばられる」ことは、実験でも確かめられています。
1942年に、アメリカの心理学者ルーチンスが行った、有名な実験です。
内容は、こんな問題です。
大きさのちがう3つの水差しを使って、決められた量の水を作る。
練習として、
ある同じ手順で解ける問題を、
何問も続けて解いてもらいました。
そのあと、
もっと簡単な方法で解ける問題
を出しました。
結果は、次のとおりです。
- 練習したグループ:83%が、練習で身についた遠回りの方法を使った
- 練習していないグループ:約1%しか、遠回りの方法を使わなかった
さらに、
練習した方法では解けない問題を出すと、
次のようになりました。
- 練習したグループ:64%が解けなかった
- 練習していないグループ:解けなかったのは5%
つまり、
練習が、かえって邪魔をした
のです。
ここで大事なのは、
これが特別に頭の悪い人の話ではない、
ということです。
同じ手順を何度も使うと、だれでも、
その手順に頭が引っぱられる。
そう考えるとよいでしょう。
熟練者でも陥る思考の罠とは
「それは子どもだからでしょう」
と思われるかもしれません。 では、プロならどうでしょうか。
2008年に、ビラリッチさんらが、
チェスの熟練者を対象に調べました。
熟練者は、ひとつ解を見つけたあと、
「もっと良い手を探している」
と答えました。
ところが、
目の動きを記録すると、
すでに見つけた手に関係する場所を、ずっと見続けていた
のです。
つまり、本人は「ほかの手を探しているつもり」でした。
でも実際は、
最初に思いついた手の周りから、目が離れていなかった。
これは、お子さんが
「ちゃんと考えているのに解けない」
状態と、よく似ています。
本人は、考えているつもりなのです。
ですから、
「もっとよく考えなさい」
と叱っても、あまり効きません。
学校問題のルールが生む先入観の正体
では、子どもたちは、どんな先入観を持っているのでしょうか。
その正体のひとつが、
「学校の文章題には、暗黙のルールがある」
ということです。
次の問題を見てください。
36人乗りのバスで、兵士1,128人を運びます。バスは何台必要ですか。
アメリカの13歳に出したところ、こうなりました。
- 割り算を、正しく計算できた:70%
- 現実に合う答え「32台」を書いた:23%
- 「31台」と答えた:19%
- 「31あまり12」と答えた:29%
計算は合っているのに、
「あまり12人は、どうやって運ぶの?」
という現実の目で、答えを見ていないのです。
もうひとつ、有名な問題があります。
船に、羊が26頭、ヤギが10頭います。船長は何歳でしょう。
答えは、問題文から分かりません。
それなのに、
多くの子が、26と10を使って「36歳」などと答える
ことが知られています。
研究者のデ・コルテさんやフェルスハッフェルさんは、
これを「文章題ゲーム」という考え方で説明しています。
子どもたちは、学校の問題で、
次のような「ルール」を覚えてしまうというのです。
- 出された問題は、必ず解けて、意味が通る
- 正解は、ひとつだけ
- 問題文に出てきた数は、全部使う
これは、
研究者の説明(解釈)であって、直接測った事実ではありません。
また、バスの調査はアメリカの13歳のものです。
日本の中学生にそのまま当てはまるとは、言い切れません。
それでも、思い当たることはありませんか。
定型問題に強い子ほど、このルールに、よく慣れている
のです。
だから、初見の問題で、
- 条件が足りない
- 現実を考える必要がある
- 数を全部は使わない
といった場面になると、ルールが崩れて、立ち止まってしまいます。
「解ける」には2種類ある
日本には、この問題を考えるときの、よい物差しがあります。
心理学者の波多野誼余夫さんと稲垣佳世子さんが、1986年に示した考え方です。
- 定型的熟達:決まった手順を、速く正確に使える力
- 適応的熟達:しくみを理解していて、新しい場面で、新しいやり方を作れる力
どちらも「解ける」と言います。 でも、中身はちがいます。
そして、新しい場面に強いのは、
適応的熟達のほうです。
この力には、
「なぜそうなるか」という理解
が必要だとされています。
ここで、はっきり言っておきます。
定型的熟達は、悪いものではありません。大切な土台です。
問題は、そこで止まってしまうこと。
土台の上に、「しくみの理解」を積んでいくことが大切なのです。
学習習慣の作り方①:まとめて解くより、"混ぜて"解く
では、家庭で何ができるでしょうか。
ひとつめは、
練習の順番を変えること
です。
2015年に、ローラーさんらが、中学1年生126人で調べました。
- 方程式のグラフと傾きの問題を、交互に混ぜて解くグループ
- 同じ種類を、まとめて解くグループ
に分けて、比べたのです。
結果は、
混ぜたグループのほうが、直後のテストも、
30日後のテストも、成績が高かった
のです。
なぜでしょうか。 同じ種類をまとめて解くと、
「どの方法を使うか」を考えなくても、
解けてしまいます。
前の問題と同じやり方を、くり返せばよいからです。
でも、本番のテストは、種類が混ざっています。
「これは何の問題か」を見分ける作業
が、必ず必要です。
家庭でできる「混ぜ練習」(私からの提案です)
- 宿題の問題を、1問ずつ、別の単元から選んで並べる
- 解く前に、「これは何の問題だと思う?」と一言だけ聞く
- 答え合わせのあとは、「どこでそう決めた?」を聞く
これは、私が教室で大切にしている進め方です。
研究で、この形が効くと確かめられたわけではありません。
まずは、気軽に試してみてください。
学習習慣の作り方②:解く前に、"構造"を一言で言う
ふたつめは、
解き始める前に、問題を一言でまとめる
ことです。
たとえば、こんな言い方です。
- 「これは、全体の数が決まっていて、足りない分を探す問題だね」
- 「これは、同じものが何回くり返されるかを考える問題だね」
数字ではなく、
「形」や「関係」を言葉にするのです。
そうすると、見た目が変わっても、
「あ、これはさっきと同じ形だ」
と気づけます。
反対に、見た目が同じでも、「これは形がちがうぞ」と気づけます。
これが、
「構造を読む」ということです。
そして、見た目にだまされない力、つまり抽象化する力
の入り口になります。
学習習慣の作り方③:「合わない」と気づいたら、方法を変える
3つめは、途中で立ち止まる習慣です。
初見で止まる子は、
合わない方法を、最後まで続けてしまいがちです。
そこで、こう決めておきます。
- 3分たっても進まなかったら、いったん鉛筆を置く
- 問題文の条件に、もう一度だけ線を引く
- 「さっきのやり方を、いったん忘れるとしたら?」と考える
先に紹介した実験でも、
「盲目になるな」と警告されたグループは、
残りの問題で、単純な方法を選ぶ人が半数を超えました。
「しばられているかも」
と知るだけでも、変わ
る可能性があるのです。
橋渡しの話:自分の見方から"一歩ひく"と、どうなるか
ここからは、少し別の角度のお話です。
ただし、
これは研究で確かめられたことではなく、私の解釈だと、
先にお断りしておきます。
2017年に、ホワイトさんらが、
4歳と6歳の子ども180人で、おもしろい実験をしました。
退屈な課題を、10分間やってもらいます。
やめて、タブレットで遊んでもいい、という設定です。
- 「私は、がんばっている?」と、自分の言葉で自問する
- 「〇〇ちゃんは、がんばっている?」と、自分の名前で自問する
- 好きなキャラクターになりきって、自問する
結果は、
名前で自問したグループは、課題に取り組む時間が長く、
キャラクターになりきったグループは、さらに長かった
のです。
自分から少し距離をとると、
気持ちに巻き込まれにくくなる。
そういう例です。
ただし、
これは幼児の「粘り強さ」の研究です。
問題文の構造を読む力を、調べたものではありません。
中学生に当てはまるかも、確かめられていません。
そのうえで、私は、こう考えています。
「自分のやり方」から一歩ひいて、問題を外から眺める。
この感覚が、先入観にしばられにくくする助けになるかもしれない、と。
家庭では、こんなふうに試せます。
- 「この問題は、何を聞いているんだろうね」と、問題を主語にして話す
- 「もし友だちが解くなら、どこでつまずくかな」と、第三者の目で考える
これも、効果が確かめられた方法ではありません。
「遊びの感覚で、やってみる」
くらいが、ちょうどよいと思います。
親の声かけ:「ちゃんと考えて!」の代わりに
最後に、保護者の方の声かけです。
避けたい言葉
- 「ちゃんと読んで」
- 「前にやったでしょ」
- 「もっとよく考えなさい」
本人は、読んでいるし、考えているつもりです。
こう言われると、「どこがダメなのか分からない」と、気持ちが沈んでしまいます。
おすすめの言葉
- 「これは、何の問題だと思う?」
- 「前にやった問題と、どこが同じで、どこがちがう?」
- 「今のやり方でうまくいかなかったら、ほかに何があるかな?」
どれも、
答えではなく、見方を聞く質問
です。
正解できたかどうかより、
「見方を変えられたか」
をほめてあげてください。
今日からできる、3つの行動
ここまでの話を、最後にまとめます。
- 初見で止まるのは、力不足ではなく、しばられているだけ。 まず、そう受け止める
- 宿題を、1問ずつ混ぜて解く。解く前に「何の問題?」と一言聞く
- 「前と同じ」ではなく、「どこがちがう?」を、声かけの口ぐせにする
まずは、今日の宿題から、1問だけ試してみてください。
「うちの子の場合は、どう見ればいいの?」と思ったら
定型問題は解けるのに、初見で止まる。
その原因は、お子さんによって少しずつちがいます。
- 問題を見る最初の一瞬で、決めつけているのか
- 途中で方法を変えられないのか
- そもそも、しくみの理解が足りないのか
雙葉進学教室は、愛知県半田市にある、
数学・理科に特化した進学塾です。
半田高校・横須賀高校を目指すお子さんも、
たくさん指導してきました。
お子さんが、どこでつまずいているのか。
一人ひとりの「解き方のくせ」を見ながら、
お話しします。