「見直しをしたの? なんでこんなところで間違えるの」
返ってきたテストを見て、
そう言いたくなる。
しかも間違えたのは、少し考えれば分かるはずのひっかけ問題。
本人に聞くと
「ちゃんと見直した」と言う。そ
れなのに、次のテストでも、また同じタイプの問題で間違える。
「うちの子は注意力が足りないのか」
と悩み、
「ゆっくり考えなさい」
「気をつけなさい」
と何度も伝えてきた。
それでも直らない。
そんな保護者の方に、40年の指導の中でたくさんお会いしてきました。
「見直しなさい」が効かない大きな理由は、
間違えた答えに"100%の自信"があるからです。
本人にとっては、その答えが正しく見えている。
だから、見直す理由がありません。
この記事では、研究データをもとに、
その仕組みと、見直しを本当に起動させる方法をお伝えします。
結論:熟考を起動するのは「問い」
先に結論を整理します。
- 直感的な誤答は、注意力不足ではなく、答えへの確信によって守られる
- そのため、「気をつけて」「見直して」という声かけだけでは、熟考のスイッチは入りにくい
- スイッチを入れるのは、気合ではなく、考えるための"問い"である
- 速さは悪者ではない。速さを鍛える場面と、鍛えてはいけない場面を使い分ける
ここで、よく使われる言葉を一つ。
心理学者カーネマンが広めた
「システム1(ぱっと浮かぶ直感的な思考)」と「システム2(立ち止まって確かめる熟考)」
です。
この記事でも、この言葉を使います。
ただし、後半で触れるとおり、これは
「便利なたとえ」として使います。
中学生がひっかけ問題に弱い3つの理由
保護者の方が気づきやすい場面を、3つ挙げます。
- 問題文を最後まで読まず、見慣れた形だと判断して解き始める。途中の条件を取りこぼす
- 答えは出たが、検算をしていない。または、同じ手順をなぞっただけで「見直した」ことにしている
- 間違えた問題を見せても、「あ、本当だ」とすぐ納得しない。「自分の答えが正しいはず」と感じている
どれも、勉強量の問題ではありません。
最初に浮かんだ答えを、そのまま信じてしまう
ことで起きています。
直感的な誤答の原因とその影響
まず、次の問題を、考えこまずに、ぱっと答えてみてください。
ペンと消しゴムで、合わせて110円です。 ペンは、消しゴムより100円高いです。 消しゴムは、いくらでしょう?
多くの方が、「10円」と答えたくなります。でも、正解は5円です。
確かめてみましょう。
- 消しゴムが10円なら、ペンは110円。合わせて120円になってしまいます
- 消しゴムが5円なら、ペンは105円。合わせて110円で、ぴったりです
(この問題は、アメリカの心理学者フレデリックが作った問題を、
日本のお金に置きかえたものです。元の問題は「バットとボール」で、金額はドルです。)
この問題は、3問からなる思考力のテストの1問目です。
ある紹介記事によると、3問中の平均正解数は、次のとおりでした。
- MIT(アメリカの有名な理系の大学):約2.2問
- プリンストン大学:約1.6問
- カーネギーメロン大学:約1.5問
- ハーバード大学:約1.4問
超難関といわれる大学の学生でも、
ぱっと浮かんだ答えにだまされるのです。
つまり、
まちがえるのは、
頭の良し悪しや、
注意力の問題ではありません。
ただし、この研究は、おもに大人が対象です。
中学生にそのまま当てはまるとは、言い切れません。
「気をつけて」の限界とその理由
では、
「見直しなさい」
「よく考えなさい」
と声をかければ、直るのでしょうか。
2023年に、MeyerさんとFrederickさんが、
とても大きな調査を発表しました。
同じ問題で、のべ59の実験、7万人以上に、
いろいろな声かけを試したものです。
試した声かけは、次の4つです。
- 「見た目より難しい問題ですよ」と、先に教える
- 「10円ではありません」と教えて、もう一度答えてもらう
- 「5円かどうか、考えてみてください」と促す
- 「答えは5円です。5と書いてください」と、はっきり伝える
結果は、次のとおりでした。
- どの声かけでも、正解する人は増えた
- でも、ほとんどの人が正解できたのは、最後の「答えを教えた」ときだけだった
- それでも、約18%の人は、「10円」のままだった
- 10円と答えた人の多くは、「絶対にまちがいない」と、100%の自信を持っていた
ここから分かるのは、こういうことです。
本人には、まちがいが「見えていない」のです。
自分の答えが正しいと思っているので、
「見直しなさい」と言われても、
どこを見直せばいいのか分かりません。
読みにくい文字が効果を発揮しない理由
「考えるスイッチを入れる、かんたんな方法はないの?」
と思われるかもしれません。
実は、こんな報告もありました。
2007年に、大学生40人にさきほどのようなテストを解いてもらったところ、
読みにくい文字で問題を出したほうが、成績がよかった
というのです。
「読みにくいと、頭がしっかり働く」
という説明でした。
ところが、2015年に、もっと大きな規模でやり直したところ、
結果は変わりました。
17の研究、7,000人以上のデータです。3問中の平均正解数は、次のとおりでした。
- 読みやすい文字:1.43問
- 読みにくい文字:1.42問
ほとんど差がありませんでした。
ここからの教訓は、シンプルです。
文字を変える、深呼吸をする、といった小さな工夫だけで、
「考えるスイッチ」が入ると期待しないほうがよい
ということです。
「速さ」は、悪者ではありません
「速く解くこと」
そのものは、悪いことではありません。
算数が苦手な小学1年生を対象にした、
2013年の研究があります。
週に3回の個別指導の中で、次の2つの練習を比べました。
- 60秒の時間制限つきで、フラッシュカードの問題をできるだけたくさん解く練習
- 時間制限のない、ゲーム形式の練習
16週間後、
時間制限つきの練習をしたグループのほうが、
算数の成績が大きく伸びていました。
ただし、同じような比べ方をした研究はまだ少なく、
さらに確かめる必要があるとされています。
また、アメリカの教育省が2021年にまとめた指導の手引きでも、
時間を測る練習を支持する研究27件について、
「根拠は強い」と評価しています。
ただし、その多くは、時間制限だけでなく、
ほかの工夫と組み合わせた研究でした。
そこで、私は、次のように使い分けるのがよいと考えています。
- 計算、九九、漢字など、考えずに出せるようにしたいこと
- 意味が分かったあとに、時間を測って練習する
速さを求めないほうがよいもの
- 文章題、ひっかけ問題、「なぜそうなるか」を考える問題
- 速く解く前に、「確かめる」ことが必要
つまり、「スピード重視の弊害」とは、速さそのものではなく、
速さを求める場面をまちがえること
なのです。
なお、この研究は、算数が苦手な小学1年生が対象でした。
中学生の入試対策に、そのまま当てはめることはできません。
立ち止まって考える習慣は、「理解する力」の土台にもなる
立ち止まって考える習慣は、
ミスを減らすだけのものでしょうか。
2020年に、YoungさんとShtulmanさんが発表した研究が、
ヒントになります。
対象は、学校に通う年齢の子ども152名です。
さきほどのような
「ぱっと浮かんだ答えを疑えるか」
を測るテストを子ども向けにして、
あわせて、理科と算数の
「なぜそうなるのか」
の理解も調べました。
結果は、次のとおりです。
- 年齢や、集中力・計画する力、論理的な考える力の違いを考えに入れても、
立ち止まって考える力が高い子ほど、
理科と算数の理解も高かった
つまり、立ち止まって考える習慣は、
「ミスを防ぐ」だけでなく、
「しくみや理由が分かる」ための土台
にもなる可能性があります。
ただし、これは「関係がある」と分かっただけです。
「立ち止まる練習をすれば、理解が深まる」
とまでは、言い切れません。
学習習慣の作り方:熟考を起動する"3つの問い"
では、どうすればよいのでしょうか。
ヒントになるのが、数学教育の研究「IMPROVE」です。
メタ認知的な質問(自分の考えを確かめる問い)を使って、
数学の問題を解く指導法です。
質問は、大きく3種類に分けられます。
- 理解の質問:問題を自分の言葉で言い、何の問題かを分類する
- 関連づけの質問:以前に見た問題と、どう関係しているかを問う
- 方略の質問:どの原理を、なぜ、どうやって使うのかを問う
研究結果は、次のとおりです。
- Mevarech と Fridkin(2006年):大学進学前の数学コースを受講する81名で、数学的知識と数学的推論の両方で、IMPROVE群が対照群を上回った
- 別の紹介では、研究1(247名)で、事後の平均が統制群 68.03、実験群 74.72
- 研究2(265名)では、有意だったのは上位群のみ。手続き練習が中心の単元(代数式の演算)では、効果が小さい傾向があった
万能ではありませんが、
「考えるための問いを、先に渡す」
という方向は、家庭でも使えます。
以下は、IMPROVEを参考にした私の提案です。
家庭での効果が検証されたものではありません。
ステップ① 解き始める前に、「何の問題?」を一言で言わせる
- 問題を自分の言葉で言い換えてもらう(理解の質問)
- 例:「これは、合計と差から、小さいほうを求める問題」
- 30秒だけでよい。これが、最初の直感に待ったをかける
ステップ② 「前にやった問題と似てる?」と聞く
- 見慣れた形に見えるときこそ、ひっかけの可能性を疑う(関連づけの質問)
- 「似ているけど、どこが違う?」まで聞けたら満点です
ステップ③ 答えが出たら、「自信は何%?」と「別の方法での確かめ」
- 自信の度合いを0〜100%で言わせる
- 同じ手順をなぞるのではなく、別の方法(逆算、代入、図に描く)で確かめる(方略の質問)
- 「自信100%なのに間違えた問題」は、最優先で復習する
バットとボールで言えば、
「ボール10円を代入して、合計を計算してみる」
だけで、誤りに気づけます。
確かめ方を変えることが、熟考の入口
です。
保護者の方へ:「見直したの?」を「どうやって確かめた?」に変える
最後に、声かけのコツです。
「見直したの?」
は、答えがイエスかノーで終わる質問です。
「見直した」
と言えば、そこで話が終わってしまいます。
質問を、少しだけ変えてみてください。
- 「この問題、何の問題だと思った?」
- 「どうやって答えを確かめた?」
- 「自信は何%? 100%なら、別の方法でも確かめてみようか」
どれも、答えを責める質問ではなく、
考え方をたどる質問
です。
間違えた直後は、親が正解を先に言わず、
聞き役に徹してください。
本人が自分で誤りに気づく瞬間が、
いちばん記憶に残ります。
最後に:システム1・2は「便利なたとえ」です
ここで一つ、誠実にお伝えしておきたいことがあります。
「システム1」「システム2」という二つの思考のモデルには、
研究者のあいだで批判と擁護の議論があります。
たとえば Melnikoff と Bargh(2018年)は、こ
のモデルの前提となる特徴の相関が示されておらず、
「二重過程の類型は放棄されるべき」と主張しました。
これに対し、Evans と Stanovich らは反論しており、
議論は続いています。
ですから、この記事の「システム1・2」は、
脳の中に二つの部屋があるという意味ではありません。
思考の傾向を分かりやすく表した、便利なたとえ
として使っています。
大切なのは、名前の正しさではありません。
「最初に浮かんだ答えを、そのまま信じない」
習慣を、問いの力で育てる
ことです。
行動につながる結論
「見直しなさい」
が効かないのは、子どもの注意力が足りないからではありません。
間違えた答えに、本人が100%の自信を持っている
からです。
- 警告や再解答の機会だけでは、大多数は正答できなかった(59研究・70,000人以上)
- フォントなどの小手先の工夫は、追試で効果が再現されなかった(1.43 対 1.42)
- 速さは、自動化したい基礎計算では鍛えてよい。文章題やひっかけは、速さの前に検証
- 熟考する習慣は、概念理解の土台になる可能性がある(子ども152名の研究)
- 熟考を起動するのは、気合ではなく「問い」
今日の勉強から、まず一つだけ試してください。
テストや問題集で、ひっかけに流された問題を1問選び、
「自信は何%だった?」
と聞いてみましょう。
その数字が、見直しが起動しない理由を教えてくれます。
愛知県半田市で学習塾をお探しの保護者の方へ
「見直しの習慣がつかない」
「ひっかけ問題に流されてしまう」。
そんなときは、雙葉進学教室にご相談ください。
雙葉進学教室は、愛知県半田市にある、数学・理科に特化した進学塾です。
答えの正誤だけを見るのではなく、お子さんが
「どう考えて、どう確かめたか」
を言葉にできるよう、
指導歴40年の経験をもとに寄り添います。
半田高校・横須賀高校を目指すご家庭からのご相談も、お待ちしています。