「塾に通っているのに、一人になると何も解けないんです」
授業のあとは「分かった」と言う。
ノートもきれいにまとまっている。
でも、家で同じ形の問題を出すと、
ペンが止まる。
「先生に聞かないと分からない」
が口ぐせになり、
自分で粘る前に質問してしまう。
通わせているのに、かえって依存が強まっていないか。
毎月の月謝を払いながら、
そんな不安を抱える保護者の方に、
40年の指導の中でたくさんお会いしてきました。
良い指導とは、いずれ自分が不要になるように設計された指導です。
教えてもらうたびに「分かる」けれど、
支援が減らされないまま続く学習は、
自立を遠ざけてしまいます。
この記事では、研究データと私の経験から、
自立に導く指導の見分け方と、
家庭でできる関わり方をお伝えします。
良い指導の特徴:支援を減らす計画の重要性
まず、教育心理学の言葉を一つご紹介します。
足場かけ(スキャフォールディング)
です。
建物を建てるとき、外壁が出来上がるまで足場を組み、
完成すれば外します。
学習でも同じ考え方があります。
生徒が一人でできるようになるまで支え、
できるようになったら支えを外す。
この考え方です。
オランダの研究者 van de Pol らは、2010年に、
教師と生徒の相互作用に関する10年分の研究を整理しました。
そこでは、足場かけは次の3つの特徴を備えたものだとされています。
- 随伴性:支援を、生徒の今の力に合わせる。そのために、まず今の力を診断する
- フェーディング:支援を、時間とともに段階的に減らしていく
- 責任の移譲:課題をやり遂げる責任を、徐々に学習者へ渡していく。ここでの責任は、考えることだけでなく、振り返りや気持ちの管理も含む
そして重要なのは、次の指摘です。
質問やお手本といった手法を使っていても、
支援が合わされ、減らされ、責任が移されていなければ、
足場かけとは言えない
とされています。
つまり、「教えてもらう学習」とは、
足場が外れない学習のことです。
わかりやすく教えてもらえるほど、
本人は考える役を手放したままになることがあります。
成績が上がらない原因:教えてもらう学習の3つの課題
ここで、保護者の方が気づきやすい場面を挙げます。
- 家で同じ形の問題を解こうとすると、手が止まる。授業中は「分かった」のに、一人では最初の一手が出ない
- 解いている途中で、すぐ質問してしまう。粘る前に、答えを聞きたくなる
- 授業の復習は「見直す」だけで終わる。自分で解き直して、確かめることがない
どれも、勉強量が足りないのではありません。
考える責任が、まだ本人に移っていない
状態です。
成績が上がらない原因を、
「もっと通わせよう」
「もっと量を増やそう」
で解決しようとすると、足場が増えるだけで、
外れるタイミングが遠のくことがあります。
指導者の違いと効果量:アルバイトとプロの比較
ここで、よく聞かれる疑問に触れておきます。
「大学生のアルバイト講師と、プロの講師では、どちらがよいのですか」
この疑問に、データで答えてみます。
Nickow らが2020年に発表した、
個別指導(チュータリング)のメタ分析です。
就学前から高校までの実験研究を対象にしています。
全体の効果量は 0.37 SDで、
生徒の成績を50パーセンタイルから約66パーセンタイルへ引き上げる水準です。
指導者の種類別の効果量は、次のとおりでした。
- 教師:0.50(17研究)
- 準専門職(研修を受けた有給の補助者):0.40(47研究)
- ボランティア:0.21(24研究)
- 保護者:0.23(11研究)
この数字から、次のことが読み取れます。
- 教師の効果が最も大きい。ただし、Reading Recovery という一つのプログラムの成功が大きく影響している(教師研究17件中5件)
- 準専門職は、ばらつきが小さく、安定して大きな効果を示した
- 教師と準専門職の差は、研修や説明責任の違いが一因と考えられている
- ボランティアや保護者の効果は小さい
つまり、
成果を分けるのは「アルバイトかどうか」という肩書きではなく、
研修・説明責任・専門知識のある指導かどうか
である可能性が高いのです。
もう一つ、数学の指導者についての研究があります。
Hill らが2005年に発表した研究では、
小学1年生と3年生の算数で、
教師の「授業に使う数学の知識」が高いほど、
児童の学力の伸びが大きい
ことが示されました。
教える内容を深く理解していることが、
指導の質に関わっているのです。
データの限界と注意点
このデータには、限界があります。
- チュータリングのメタ分析は、主に小学生以下の研究が中心で、中学・高校の研究は少ない
- 指導者別の比較は、他の要因も絡んだ分析であり、因果を確定するものではない
- 日本の塾の講師について、直接調べた研究ではない
- 優秀な大学生講師もたくさんいらっしゃる
私は、アルバイトの講師を一括して否定するつもりはありません。
差を生むのは、
その塾が、
講師に何を研修し、
何を説明責任として求め、
どんな設計で指導しているか
だと考えています。
教えるだけでは不十分な理由と自立へのアプローチ
ここからは、研究ではなく、
40年の指導を通じた私自身の見解です。
大阪、沖縄、愛知の塾、そしてロンドン、ニューヨーク、上海での日本人向け受験指導。
環境は変わっても、私が指導の現場で大切にしてきたのは、
次の考え方です。
「分かった」と言わせることは、指導のゴールではない。
そのあとに、本人が一人で再現できなければ、
何も身についていない。
そして、40年かけて到達した結論は、これです。
最終的に指導者の手を借りなくても自力でできるようにする
教える技術よりも、手を引く技術のほうが、はるかに難しい。
教えることは、わかりやすさを磨けば上達します。
しかし、手を引くことは、
「今、この子に何を任せられるか」
を見極め続けなければなりません。
早すぎれば挫折し、遅すぎれば依存します。
この見極めには、教科の深い理解、生徒の今の力の診断、
そして支援を減らすための設計が要ります。
これは、単に「教えられる」ことの、
さらに先にある技術です。
だから私は、
自立まで導く指導は、肩書きではなく、
塾の仕組みと覚悟の問題
だと考えています。
中学生における自立学習の重要性と効果
では、自立はいつ目指せばよいのでしょうか。
Li らが2018年に発表した、
自己調整学習(自分で計画し、実行し、振り返る学習)のメタ分析があります。
中国の小中高生を対象にした、23,497名分のデータです。
学校段階別の学力との関連(効果量)は、次のとおりでした。
- 小学校:0.164
- 中学校:0.629
- 高校:0.303
中学校段階が、最も大きい結果です。
さらに、戦略別では次の数値が出ています。
- 自己評価(自分の出来を自分で確かめる):0.717
- 自己効力感(自分はできるという感覚):0.699
- 課題方略(課題への取り組み方を工夫する):0.600
段階別では、計画の段階が 0.316、実行の段階が 0.525、振り返りの段階が 0.465でした。
計画を立てるだけでなく、
やってみて、自分で評価し、直す
ところに、効果の大きさがあります。
この研究には、注意点があります。
- 中国の児童生徒が対象で、日本にそのまま当てはまるとは断定できない
- 大半が横断研究(ある時点での相関)で、因果は断定できない
- 論文中の全体の効果量の表記に、不一致がある(0.365と0.435)
それでも、
「中学生は、自分で評価し、自分で直す力が、
学力と強く結びつきやすい時期」
だという方向は、私の指導現場での実感とも一致しています。
自立を促すための適切な関わり方
ここで、よくある誤解に触れます。
「自立させるには、突き放せばいい」
という考え方です。
Jang、Reeve、Deci が2010年に発表した研究は、
この考えに待ったをかけています。
アメリカの高校133学級、9〜11年生1,584名を対象に、
教師の指導スタイルと生徒の学習への関与を調べました。
- 自律性支援(選択や自分の考えを大切にする関わり)
- 構造化(目標や手順をはっきり示す関わり)
結果は、次のとおりです。
- 2つは、対立せず、正の相関があった
- どちらも、行動の面での関与を予測した
- 本人が感じる関与を独自に予測したのは、自律性支援だけだった
つまり、放任(構造がない)でも、管理(本人の選択がない)でもなく、
枠組みは示しつつ、選択と責任は本人に渡す
ことが、自立への道です。
高校生対象の研究であり、
中学生にそのまま当てはまるとは断定できません。
それでも、
「突き放す」ことと「手を引く」ことは別物だと、
私は考えています。
家庭でできる自立学習の4ステップ
では、家庭では何ができるでしょうか。
以下は、研究で検証された手順ではなく、
私の指導経験にもとづく提案です。
補助輪つきの自転車を思い浮かべてください。
補助輪は必要ですが、
外す計画がなければ、いつまでも乗れない子
になってしまいます。
ステップ1:問題を自分の言葉で説明させる
- 質問する前に、「これは何の問題だと思う?」と本人に言ってもらう
- うまく言えなくても構いません。言葉に詰まった場所が、助けの入口です
- 診断(今の力を知る)にあたります
ステップ2:段階的に助ける方法
- いきなり答えを教えず、①小さなヒント → ②問いかけ → ③解き方の見本、の順に出す
- 前の回よりも、手を貸す量を少しずつ減らす(フェーディング)
- 助けた記録を、ノートの端に残しておくと、減っているかどうかが分かります
ステップ3:自己評価の重要性と方法
- 「分かった度」を3段階で付け、その理由を一行書く
- 自己評価は、前述の研究で効果の大きかった戦略のひとつです
- 「自信があるのに間違えた」ものは、次の復習の最優先にします
ステップ4:解説なしでの解き直しで自立を促す
- 解説を見ずに、同じ形の問題を自分で解いてみる
- 親は答えを言わず、聞き役に徹する
- 解けたら、それが「足場が外れた」証拠です
4つのステップは、
診断、フェーディング、自己評価、責任の移譲
という流れで、足場かけの3要素と対応しています。
塾選びのための3つの重要な質問
最後に、塾選びや、今の塾を見直すときの物差しをお渡しします。
これも、研究で検証された基準ではなく、私の考えです。
体験授業や面談のときに、聞いてみてください。
質問1:お子さんの現在の力の診断方法
- テストの点数だけでなく、「どこで、どう考えて止まるか」を見ているか
- 見ていない場合、支援を合わせることができません
質問2:支援を減らす計画の有無
- 「いつまでに、何を、自分でできるようにするか」が言葉になっているか
- 計画がなければ、足場は外れないまま続きます
質問3:授業中の解説者について
- 講師がずっと話し続けるのか、生徒が説明する時間があるのか
- 生徒が自分の言葉で説明する時間が少ない場合、考える責任は移りにくくなります
この3つに、具体的に答えてくれる塾は、
少なくとも「自立」を指導の目標に置いている可能性が高いと、
私は考えます。
肩書きや雇用形態よりも、この中身を見てください。
実践への結論:今日から始める自立学習
塾に通っているのに自分で解けないのは、
努力や才能の問題ではありません。
支援が合わされず、減らされず、考える責任が移されていない
ことが原因かもしれません。
- 良い指導は、足場かけの3要素(診断・フェーディング・責任の移譲)を備えている
- 成果を分けるのは肩書きではなく、研修・説明責任・設計(指導者別の効果量:教師0.50、準専門職0.40、ボランティア0.21)
- 中学生は、自己評価や自己効力感などの自立の力が学力と結びつきやすい時期(中学校段階の効果量 0.629)
- 自立は、放任でも管理でもなく、枠組みを示して責任を渡すこと
今日の勉強から、まず一つだけ試してください。
お子さんに質問されたとき、
答える前に
「これは何の問題だと思う?」
と、一言だけ聞き返してみましょう。
その一言が、補助輪を一段上げる、最初の一歩になります。
愛知県半田市の学習塾:雙葉進学教室のご案内
「通っているのに、自分では解けない」
「いつまで塾に頼るのかが不安」。
そんなときは、雙葉進学教室にご相談ください。
雙葉進学教室は、愛知県半田市にある、
数学・理科に特化した進学塾です。
わかりやすく教えることにとどまらず、
お子さんの今の力を診断し、
支援を少しずつ減らして、
一人で解ける力へつなげる。
指導歴40年の経験をもとに、
「いずれ補助が不要になる指導」
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半田高校・横須賀高校を目指すご家庭からのご相談も、
お待ちしています。