「基本問題は解けるのに、応用問題になると手が止まる」
解説を読めば「なるほど」と思う。
でも次に似た問題が出ると、
また最初の一手が出てこない。
そんな我が子を見て、
「うちの子には数学のセンスがないのかもしれない」
と、ふと不安になったことはありませんか。
問題集を買い足し、演習量を増やしても、手応えがない。
親としては、これ以上何をさせればいいのか分からなくなる。
そのお気持ちは、40年の指導の中で、数えきれないほど伺ってきました。
「応用問題」という特別な種類の問題があるわけではありません。
応用問題が解ける子は、頭が良いのではなく、問題を
"何の問題か"
という目で見ています。
そしてこの見方は、センスではなく、練習で鍛えられます。
この記事では、研究データと具体的な問題例をもとに、
その仕組みと家庭での練習法を整理します。
応用問題の本質:基本の組み合わせが見えない理由
まず、考え方を一つだけ変えてください。
応用問題の多くは、
新しい知識を要求しているのではありません。
すでに知っている基本を、
初めて見る組み合わせで使うことを求めているだけです。
ところが、子どもの目にはその組み合わせが見えていません。
部品は持っているのに、完成図が見えない。
レゴブロックは手元にあるのに、
何を作る問題なのかが分からない状態です。
だから、「基礎が大事」と言われて基礎を磨いても、
手応えが出ないことがあります。
足りないのは部品ではなく、
問題を見て「これは何の問題か」と見抜く目
だからです。
中学生の成績が伸びない3つの理由と解決策
保護者の方から相談を受けるとき、悩みの形は、大きく3つに分かれます。
- 基礎は理解しているのに、応用になると解けない
- 問題を前にして、どこから考えればよいか迷う
- 解説を読んでも、その発想に至る理由が分からない
どれも、
「使うべき基礎と問題が結びつかない」
という一点に集約できます。
これは、勉強量の不足とは限りません。
熱心に取り組んでいる子ほど、
「こんなにやっているのに」
と自信をなくしてしまいます。
努力の量ではなく、努力の向きを見直す段階に来ている
サインです。
熟達者の視点:物理実験から学ぶ問題の見方
「問題の見え方」
の差を調べた、有名な研究があります。
Chi(チー)、Feltovich、Glaser が1981年に発表した、
物理の問題の分類実験です。
大学院生(熟達者)と初学者に、
物理の問題を「似たもの同士」に分けてもらいました。
結果は次のとおりです。
- 初学者:問題の表面的な特徴で分類した(「ばね」を選んだのが75%、「斜面」が50%、「滑車」が38%)
- 熟達者:問題の背景にある物理原理で分類した(「ばね」を選んだのは25%にとどまった)
つまり、見た目が「ばねの問題」でも、
熟達者は「エネルギーの問題」
として見ています。
見た目が違う2問でも、
原理が同じなら、同じ仲間として扱います。
数学で言えば、次のような違いです。
- 初学者:「これは速さの問題」「これは鉛筆の問題」
- 熟達者:「これは、同じ量を2通りに表して等号で結ぶ問題」
応用問題が解ける子は、表面の下にある"構造"を見ています。
初見の問題でも、
「あ、これはあの形だ」
と気づけます。
これが、いわゆる抽象化の力です。
才能ではない!追試が示す問題解決力の鍛え方
「やっぱり、熟達者は生まれつき見る目が違うのでは」
と思われるかもしれません。
ここで、後年の追試研究が重要な事実を示しています(arXiv:1602.08781)。
大学の物理で、学生と大学院生に同じような分類課題を行ったところ、結果はこうでした。
- 微積分ベースの入門学生と大学院生の「良い分類」の分布は、大きく重なった
- 入門学生を一律に「初学者」、大学院生を一律に「熟達者」とみなすのは適切でないと、著者らは結論づけた
- 教員は大学院生より有意に良い成績だった
つまり、「見抜く力」は、ある人とない人に二分されるものではありません。
連続的に伸びていく力
であり、入門段階の学生の中にも、
すでに原理で見られる人がいたのです。
この研究は大学の物理を対象にしたものです。
中学生の数学にそのまま当てはまると断定はできません。
ただ、
「見え方は生まれつきの差ではなく、程度の差である」
という方向を示す、大事な手がかりだと私は受け止めています。
見落としがちな条件を見抜く方法
次に、問題文の「隠された条件」について考えます。
小学3年生の文章題で、こんな問題があります。
1列に14人並んでいます。Aさんの前に7人います。後ろには何人いますか?
答えは 6人 です
(Aさんは8番目なので、14 − 7 − 1 = 6)。
ところが、この問題の誤答は約7割にのぼると、
今井むつみ氏らの研究を紹介する記事で報告されています。
「14 − 7 = 7」
と答えてしまうのです。
ここで隠れていた条件は、
「Aさん自身も1人として数える」
という点です。
問題文には書かれていません。
でも、日本語の「前に7人」の意味を正しく読めば、
自然に分かるはずの条件です。
今井氏らの『算数文章題が解けない子どもたち』(岩波書店, 2022)は、
つまずきを単なる読解力不足で片づけず、
次の2点が背景にあると指摘しています。
- 問題文の重要な語や概念の意味を、正確に知らない
- 書かれていない情報を補えない(行間を埋められない)
さらに、新井紀子氏らのリーディングスキルテスト(RST)では、
中学生の正答率が次のように報告されています(約2万5000人が受検)。
- 係り受けの問題:中学生37.9%
- 同義文判定の問題:中学生57.4%(2択なので、偶然でも50%)
これらの調査は、対象や測定内容が限られた一つの結果です。
解釈には慎重さが必要です。
それでも、
「条件が隠れている」のではなく、
「書いてあるのに見えていない」子が少なくない
という方向は、はっきり読み取れます。
条件を3つに分類する方法とその効果
私は、問題文の条件を、次の3つに仕分けるよう勧めています。
これは指導現場での整理の仕方で、研究で効果が検証されたものではありません。
- A.明示条件:書いてある数や関係(「14人」「前に7人」)
- B.言い換えが必要な条件:読み替えて初めて使える情報(「前に7人」→ Aさんは8番目)
- C.暗黙の前提:単位、範囲、言葉の定義(「等しく分ける」の意味など)
多くのつまずきは、BとCで起きます。問題文を読むときに、
「これはAか、Bか、Cか」
と仕分ける目を持つだけで、見落としは減っていきます。
学習習慣の改善法:2問比較で見抜く力を養う
では、構造を見抜く力は、どう鍛えればよいのでしょうか。
ヒントになるのが、Gick と Holyoak が1983年に発表した、
類推の実験です。
要点は次の2つです。
- 1つの例だけを読んでも、要約する、原理を言葉にする、図で表すといった工夫をしても、別の問題への応用は目立って促進されなかった
- 2つの例を比べ、似ている点を書かせると、共通する構造が自然に抽出され、その質が後の成績を予測した
この実験は大学生が対象です。
中学生にそのまま当てはまると断定はできません。
ただ、
「1問を何度も解くより、2問を並べて比べる方が、構造は見えやすい」
という方向は、家庭で試す価値が十分あります。
実践例:2問比較で見抜く力を鍛える
問題1 鉛筆を何人かの子どもに配ります。5本ずつ配ると3本余り、6本ずつ配ると2本足りません。子どもは何人で、鉛筆は何本ですか。
問題2 みかんを何人かの子どもに配ります。3個ずつ配ると4個余り、5個ずつ配ると2個足りません。子どもは何人で、みかんは何個ですか。
見た目は「鉛筆」と「みかん」で別物です。でも、2問を並べて、「どこが同じ?」と聞いてみてください。
- どちらも、人数は1つ、全体の数も1つ
- どちらも、全体の数を2通りの式で表している
- だから、2つの式を 等号で結べる
解き方も同じ形になります。
- 問題1:5x + 3 = 6x − 2 → x = 5(子ども5人、鉛筆28本)
- 問題2:3x + 4 = 5x − 2 → x = 3(子ども3人、みかん13個)
ここで隠れていた条件は、
「どちらの配り方でも、配る全体の数は変わらない」
という点です。
問題文には書かれていません。
でも、2問を並べて共通点を言葉にすると、
その構造が自然に浮かび上がります。
保護者のサポート法:「もっとよく読んで」から「何の問題に見える?」へ
最後に、声かけのコツです。
「もっとよく読みなさい」
は、子どもにとって何をすればよいか分からない指示です。
読んでいるのに見えていないからです。
質問を、次のように変えてみてください。
- 「この問題、何の問題に見える?」
- 「前にやった問題で、似ているのはどれ?」
- 「この2問、どこが同じで、どこが違う?」
どれも、答えを求めるのではなく、
見方を言葉にさせる質問です。
親が先に答えを言ってしまうと、
せっかくの練習の機会がなくなります。
聞き役に徹して、子どもの言葉を待ってください。
うまく言えなくても構いません。
言葉に詰まった場所が、構造が見えていない場所だからです。
行動に移すための結論と次のステップ
応用問題が解けないのは、
センスがないからでも、
努力が足りないからでもありません。
問題を"何の問題か"で見る目が、まだ育っていないだけ
です。
そしてその目は、次のように鍛えられます。
- 問題文の条件を「明示」「言い換え」「暗黙」に仕分ける
- 見た目が違う類題を2問並べて、共通点を言葉にする
- 親は答えを言わず、「何の問題に見える?」と聞く
今日の宿題から、まず一組だけ試してください。
似ている問題を2問選び、
「どこが同じか」
を一文で書かせてみましょう。
その一文が、
「応用問題」を「見たことのある形」
に変える第一歩になります。
愛知県半田市の学習塾案内:お子さんの成績向上をサポート
「うちの子の"見え方"を、一度見てほしい」
「基礎はできているのに、応用で伸び悩んでいる」
そんなときは、雙葉進学教室にご相談ください。
雙葉進学教室は、愛知県半田市にある、数学・理科に特化した進学塾です。
答えの教え込みではなく、
お子さんが「何の問題か」を自分の言葉で説明できるよう、
指導歴40年の経験をもとに寄り添います。
半田高校・横須賀高校を目指すご家庭からのご相談も、お待ちしています。